第10回『バビロンの黄金伝説』

作画を二人で語ろう(仮)
第10回『バビロンの黄金伝説』

くま
ついにやってまいりました。「バビロンの黄金伝説」に行きましょ
う。軽く説明を入れておくと…。
劇場版3作目。監督は旧ルパンから関わっている吉田しげつぐと、
新ルパンで監修を務めた鈴木清順。脚本は当初浦沢義雄でしたが、
その助っ人として大和屋竺が担当。作画監督はPARTIIIの屋台骨であ
る青木悠三・尾鷲英俊・柳野龍男の三人。パート別に担当している
ものと思われます。PARTIII集大成とも言える「バビロン」ですが、
例によって製作期間がかなりシビアなものだったみたいですね。絵
コンテは監督の吉田しげつぐと、小華和ためお、甲賀電(尾鷲英俊
)ですがあまり区別がつかないです。

池本
まぁあの…結局あれなんですよ。「バビロン」敗因の原因は作家不
在の点にあるんだと思うんですよ。押井ルパンが馬鹿な利権集団の
判断で没になって、その急場を埋めるために無理矢理体裁を整えた
「バビロン」はどうしたって完成度が高いはずは無いんだけど、そ
ういったスケジュール的な云々は置いておくにしても、強烈な作家
が不在だってのがとにかく問題であって。「マモー編」や「カリ城
」が何故傑作たり得たかって、理由はまぁ様々ですが、前者は吉川
惣司、後者は宮崎駿という強烈に作家性を持った人が監督してるか
ら面白いんだというのがあって。翻って「バビロン」にはそれが無
い。だからとてもじゃないけど映画としてはボロボロなんですね。
だからところどころ面白い部分をつまみ食いするのが「バビロン」
への正しい接し方なんだろうと思います。

くま
監督も鈴木清順と、吉田しげつぐという二人体制。これだけでドタ
バタがあったことが目に見えるようです。

池本
監督・鈴木清順なんてのも御題目に過ぎなくてね。箔をつけるため
に実写系の監督を引っ張ってくる図式なんてのは昔からありますが
仕事らしい仕事なんかしてるはず無いんだから。これのどこが清順
映画だよ、と。結局連名になってる吉田しげつぐが中心になってる
のは明白で。鈴木清順は横からちょこちょこ口出した程度のもんだ
ろうてのは容易に推察出来る話でね。吉田しげつぐって有能な演出
家だとは思うんだけど…それはオーソドックスにソツなくこなす…
言わば極め付けの優等生みたいな感じだから、強烈な作家性という
のとは無縁ですね。

くま
確かに吉田氏は強烈な作家と言うより、テレビシリーズものを堅実
にこなすイメージがあります。

池本
脚本の浦沢義雄が迷走してしまって、大和屋竺がどうにか着地させ
たような脚本を吉田しげつぐが演出しても『映画』にはなりようが
無いんですね。作画の青木悠三も有能な絵描きではあっても作家で
はないですから。

くま
「バビロン」を見る際は『映画』として見るのはちと無理がありそ
うですね。その意味ではテレビスペシャルみたいな位置づけなのか
な?とは言え、少なくとも作画のクオリティに関しては近年のテレ
スペなど問題にならないぐらい「バビロン」は贅沢だと思う次第で
して。
私が気になるのはまずオープニングでビルを回り込む動画。なんて
無意味なことをやっているんだ、と(笑)同年代のアニメは結構こ
ういう無茶な動画が見られますね。

池本
あの開巻にはとにかく度胆抜かれましたね。動画部分も凄いけど石
垣努の美術も物凄かったですね。

くま
あと、誰もが突っ込むと思われるのが冒頭のバイクシーンが妙に長
い事!このシーンの作画は何げに手が込んでますね。何となくテレ
コムっぽい作画の気がします。

”バビロンの黄金伝説”イラスト
by 池本 剛

”バビロンの黄金伝説”イラスト by 池本 剛

池本
序盤の画面に関しては、とにかく作りはリッチですね。気が効いた
台詞も浦沢節炸裂でグー。このテンションを全体で維持出来てたら
凄かったんだけど。

くま
黄金の像を盗み出す件りも良い感じ。ここの作画も今じゃあまり見
られないかなぁ。また、尾鷲コンテと思われる…ルパン達が砂漠で
戦車に追っかけられる件りはOHプロの担当と推察出来ますが、タ
イミングとレイアウトがいい感じなので気に入ってます。五右ェ門
が戦車を切るところは芸コマですね。

池本
一瞬斬りカスと言うか粉塵がパッと舞うんだよね。

くま
私の好きなラストシーンでは青木作画を拝むことが出来ます。この
辺りは作中でも屈指の完成度ではないでしょうか。黄金の塔に飛び
移るときの作画がとても素敵。と言うか、後半バベルの塔の中にル
パンと不二子が落ちる辺りから、殆ど青木作画じゃないですか?
どーなんでしょ。

池本
バベルの塔の中の辺りは尾鷲英俊じゃないですかね。と言うか終盤
では青木悠三は描いてないように思います。ただまぁ確かにこの辺
りの作画は出来がいいですよね。

くま
動いているシーンばかり挙げてますが、「バビロン」において、止
めのシーンもかなりのものと思われます。もちろんヘタってる所も
ありますが。具体的には前半、ロゼッタ婆さんが登場の件りはなか
なか引き締まった画面になってるかと。ほんの数コマしか使われな
い表情でも、味のあるカットがあったりするので、コマ送りで見る
と面白いかもしれません。「バビロン」ではとりわけ、顔の左右の
対比を意識して崩していたり、パーツの大きさを大袈裟に変えてみ
たりと、視覚的に飽きさせないような工夫が随所に見受けられます
。表情の豊かさは恐らく歴代ルパン作品の中でも屈指ではないでし
ょうか。『魅せる』というのは作画の力がモロに問われますね。最
近のアニメは作画を魅せるものがやたら多い様な気がしますが…履
き違えてるような気がしないでもないです。

池本
「バビロン」てのは全体の完成度に関しては「低い」と言うしか無
いけど、とにかく意欲なり勢いなりはありますよね。止めて止めて
一枚絵の完成度を上げる道は選ばずに「とにかくもう動かしてしま
え」という発想で作ってあって、これだけハイテンションな「ルパ
ン」もちょっと珍しい。
気の効いたシーンや優れた作画は散見される作品だから、もう少し
余裕のある体制で作られていたら…とにかく勿体無い作品ですね。

くま
100分にするには無理があるシナリオですが、後半…つまり大和屋
脚本部分は結構盛り上がるのに加え、作画も良くなっていくので、
エンタティンメントとしては十分に楽しめる作品になってますね。
PARTIIIをさらに軽くして、良い感じに支離滅裂(笑)それを画面で
表現出来てる事はとても素晴らしいと思います。これは青木悠三の
飛び抜けた作画のセンスによるものが大きいと思います。
ま、結局は池本さんの言うようにシーン毎にかいつまんで楽しむの
が無難のような気がしますけど。「マモー編」や「カリ城」よりは
マイナーな作品ですが、是非おすすめしたい一本です。

公開日: 2005-03-15 00:00  投稿者:  カテゴリ: コラム

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