第5回『新ルパン その3』

作画を二人で語ろう(仮)
第5回『新ルパン その3』

くま
「マイアミ銀行襲撃記念日」は浦沢脚本・青木コンテ・吉田演出・
テレコム作画という最初で最後のスゲー組み合わせですね。私はテ
レコム回の中では最後に見たのですが、もう贅沢極まりない出来で
。海に潜るところとか、金庫を斬ろうとする五右ェ門とか。キャラ
デザインが変わっていようが(他のテレコム回よりもキャラの頭身
が低いような気がします)、脚本に無理があろうが(笑)、地味な
ところもしっかり動かしてるし、視覚的に楽しい。美術設定も気合
が入ってます。あと銭形のガバメントに指つっこんでるルパンが口
パクしていないとかは何気に細かいです。見直してみると、バキュ
ームカーで吸い出す件りも手が込んでますね。内容はおバカで非現
実的ですが、密度が濃い。

池本
実力のあるスタッフが優れた技術でリッチに作ってますよね。コメ
ディってのは特に画面の出来に左右されるジャンルだと僕は思いま
す。おかしな世界、おかしな事件、おかしな人物をきっちりと作り
込んでるから可笑しいんであって、画面がチープだと笑えるものも
笑えませんから。

くま
「ルパン」の場合軽妙なノリのコメディが主ですから、その雰囲気
を作り出す必要がある。もちろん山田さんを始めとする素晴らしい
声優陣の力量も大きいですが、それに見合った優れた画面を作る事
が大前提です。「マイアミ銀行襲撃記念日」はそれが出来ている作
品と言ってもいいですね。

池本
「神様のくれた札束」もそれは同じで。あのテレコム作画だから面
白いんであって、これで作画が辻初樹だとか横山広美だとか藤岡正
宣だとかだったら面白くも何ともない作品になってたでしょうから
。「神様のくれた札束」で一番印象的だったのは物語終盤、雨が上
がるシーンですね。ハッとする美しさです。山本二三の美術が如何
に素晴らしいか。その上で『魅せ方』が実に上手い。素晴らしい演
出ですね。

くま
あそこは…まさに『美術』の力ですね。山本二三の担当した回は何
れも背景に手が込んでいますが、オチを見せると同時に、美術をも
見せてる。私が印象に残ったのは銭形が日の出に向かって溜め息を
して、焚き火を消して出動を命じる件りです。

池本
ああ…あそこもゾクゾクしますね。

くま
「神様のくれた札束」自体はコミカルなストーリーで、直前のルパ
ンも大袈裟な振る舞いをしていますが、それ故にこの場面がとても
目立つんです。夜明けと共に出動だっ、という雰囲気を徐々に作り
出して引き締めていくという。こういう演出新ルでは結局あまり見
なかったなぁ、と。

池本
「ルパン逮捕ハイウェイ作戦」は、とにかくまぁ動く動く(笑)そ
してまた描写が細かい細かい(笑)冒頭のシーンで五右ェ門の飲ん
でるジュースの周りを蝿が飛んでますからね、ストーリーと何の関
係も無く(笑)後はもう推して知るべしで。とにかくキャラクター
が生きてる。その背景となってる世界も空気感がある。トラックを
拾う件りの次元の演技なんかも実に滋味深くて。そういったディテ
ィールの積み重ねが、突飛な飛躍を納得させてるんですよね。きっ
ちりと生活感・現実感を裏打ちしておいて馬鹿なカーアクションを
やるという。リアリティというのは、こういう事です。

くま
次元の一連の動作は至極納得が行きますね。こういうのがカーアク
ションや後半の橋が割れるシーンへの布石になるわけですね。何か
非日常的な事をやるときは日常的なものが対比として必要になりま
す。ギャップを生み出すことで笑いを生み出すコメディにも同じ事
が言えますよね。これはループしている話題ですが(笑)大事なん
だからしょうがない。
「死の翼アルバトロス」は宮崎駿脚本・コンテ・演出回ですね。こ
れは最早テレビシリーズにおけるクオリティを軽く超えているわけ
ですが…。私が凄いなーと思うのは、やはり活劇の描き方の上手さ
でしょうか。ルパンと次元が銭形から逃げる件りはテンポの良さも
さる事ながら、手錠で繋がったままの二人の見せ方が素敵です。

”セカンドシリーズ”イラスト
by 池本 剛
”セカンドシリーズ”イラスト by 池本 剛
池本
冒頭からギュンギュン飛ばしますからね。息もつかせぬ名調子で。

くま
さらに私の好きなシーンで、ルパン達がボートに乗って追いかけて
、飛び乗ろうとしても届かないという件りは背景動画の海、ボート
、ルパン、アルバトロスという、いろんな物体の事象がちゃんと画
面で説明出来ている事も凄いです。スピード感がある流れなのに、
PANなどのカメラの動きは意外と少ないんですよね。対象物がグリ
グリ動いてるからこそ出来ることなんでしょうけど。最近のアニメ
はPANが多くて疲れるんですよ(笑)

池本
画面で語ってるというのが凄いんですよね。アニメとは本来こうし
たもんだろうと。隅々まで気を使ってて何処にも隙が無いですし。
その上で何が偉いと言って、キャラ解釈ですね。宮崎ルパンという
のは「ルパン」の一つの解釈として実に美しい。原作付きアニメの
正しい姿ってのは、こうだろうと。画面のみならず、ありとあらゆ
る部分に猛烈なエネルギーを注ぎ込んでいる「アルバトロス」は奇
跡的な珠玉の一本だと思いますね。それは「さらば愛しきルパンよ
」にも同じ事が言えるわけで。これだけの密度を持った傑作に「ル
パン」というシリーズが到達出来たというのは特筆すべき事ですね
。画面も内容も濃厚で…こんなテレビ作品は空前絶後だろうと思い
ます。いや…テレビに限らずとも、これだけの充実度は稀有でしょ
う。特に、旧ルパンに始まった実証主義が遂に背景にまで及んだ意
味は壮絶に大きいです。

くま
丁度「ルパン」はアニメの背景の進歩の過程に存在するのかな?「
さらば愛しきルパンよ」は画面の中における美術の濃さは半端じゃ
ないですね。この最終回で、アニメってのはやればここまで出来る
んや、という事が伝わりますね。単純に作画を見ても凄い完成度だ
し(新宿に戦車登場のシーンとか、シグマ暴走とか)、テレビシリ
ーズにおいて、これほどの進歩が見られるのってかなり珍しいので
はないでしょうか。
新ルの作画を語る際、結局は友永、青木、高畑回、およびテレコム
回以外は脱落してしまいがちですね。せめて後半にOHプロか椛島
義夫辺りがローテーションに入ってくれれば、シリーズの全体的な
クオリティももっと上がったでしょうに。それでも画に関して見ら
れる作品がこれほどあるというのはやはり贅沢なアニメなんでしょ
うけどね。

池本
画面で話をする時に名前が挙がると言うか、評価出来る物ってどれ
もシリーズの中で異色、異端な物ばかりなんですよね(苦)『いわ
ゆる新ルパン』と言うと北原健雄、朝倉隆、児玉兼嗣、横山広美な
んて辺りになるんでしょうが、この辺はもうホントに、殆ど何も言
うべき点が無い。泥臭くて垢抜けなくて格好悪くて安っちい『いわ
ゆる新ルパン』を救っているのは今くまさんが名前を挙げたアニメ
ーターなりスタジオなりであって。特に『いわゆる新ルパン』とい
うシリーズに、もし仮に漠然と洒落た印象を抱くとすれば…その殆
どは青木悠三がやった事に集約されちゃいますからね。

公開日: 2004-08-28 00:00  投稿者:  カテゴリ: コラム

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