第3回『新ルパン その1』

作画を二人で語ろう(仮)
第3回『新ルパン その1』

くま
新ルパンの作画を語る上での留意点と言えば、北原健雄はあまり当
てにせず、彼以外の「作画監督」と「原画頭」を見ることでしょう
か。しかも初期、中期、後期それぞれ勝手が違ってくる。
初期の頃はローテーションが確立されていないのでレベルの差が顕
著ですね。

池本
ホントその通りの話で…これはもう随分前から口酸っぱくして言っ
てるんだけど、新ルの作画を北原健雄で括ってしまうのは乱暴で、
各話作監とか原画頭とかでも話をすべきなんですよね。誰も言わな
いから僕が提唱し始めた訳だけども。これがまぁ旧ルの場合とかだ
と、差異は確かにあるんだけど、それを言い始めると際限が無くな
ってしまうわけで、おおよそ『大塚康生』に集約するしかないとい
うのがあって。その点、新ルやPARTIIIは数種類に分類出来ますから
ね。新ルパンと言うと条件反射的に北原健雄の名前が挙がりますけ
ど…そりゃまぁ確かにベースは北原ルパンにせよ、各回の個性が如
実に画面に顕われてるんだから、その辺を区別すべきであって。
ま、原画頭でなくてコンテ担当者のカラーが濃厚な回とかもあった
りしますが、大体は各話作監と原画頭で判断してれば間違い無い。
勿論、総作監の北原健雄と各話作監の児玉兼嗣、朝倉隆、丹内司に
も各々の特徴がありますけど…そういった大雑把な分類よりかは、
原画頭などでも分類した方がいいわけで。何せ155話もありますか
ら、それをたったの4種類に分けて「ハイおしまい」とも行かない
だろうと(笑)
北原健雄と児玉兼嗣辺りを新ルパンの基本線とするなら、青木悠三
、朝倉隆、OHプロ、高畑順三郎、テレコム、横山広美くらいは、
最低でも区別する必要があるわけで。
まず新ル初期で注目すべきは友永和秀ですよね。話の内容がどうと
いう事も無いから埋没しがちだけど、画面を抜き出して考えると優
れた出来の回が目白押しで。「ベネチア超特急」なんかが、その代
表ですよね。物凄く手が込んでる。「カリブ海の大冒険」「追いつ
められたルパン」「必殺鉄トカゲ見参」「白夜に向かって撃て」と
かも秀逸。「鉄トカゲ」のモーターボートのシーンや「白夜」の空
中戦のシーンなんかが特に絶品です。友永和秀の醍醐味は外連味た
っぷりのダイナミックなタッチとコミカルな空気が見事に同居して
る点ですね。

くま
新ル初期の友永作画は避けては通れませんね。かく言う私も避けて
通っていた一人ですが(苦)話がヘボいからムッチャ損してるなぁ
~。「ベネチア超特急」は画面の構成に関して抜きん出ているし、
一人で原画をやった「カリブ海の大冒険」は、ルパン達が洞窟に入
る件りは手が込んでるし、何より楽しい。キャラの顔がアップにな
る時とかは迫力があってまた味がありますね。おちゃらけな空気の
初期の中で、こういうカットが1つでもあると引き締まります。

池本
友永和秀に較べると弱冠大人しめで、やや印象が薄いけど丹内司も
いいですよね。「白夜」の他に「サンフランシスコ大追跡」「二つ
の顔のルパン」なんかが手堅く纏まってて安心して見れます。

くま
丹内さんの画は丸っこいですね。「サンフランシスコ大追跡」は分
かりやすいかな?

池本
友永・丹内と言えば…「バラとピストル」。この回は全面的に作画
が酷い回なんだけど、ただ一箇所、物語序盤で次元とマイヤー一味
が対峙する件りの作画が秀逸なんですよ。これがどうも友永・丹内
風味で。でも二人ともクレジットに名前出てなくって「じゃあ誰が
担当したんだろう?」と。両氏のどちらかが名前を伏せてやったの
か、それとも…高畑順三郎が当時はこういった画風でやってたのか
。他に力ありそうな名前見当たらないし…僕の不勉強で気付かない
だけかもしれませんが。
他に新ル初期の収穫と言えば「モロッコの風は熱く」。青木悠三を
堪能するのに最適な回ですね。新ルの青木悠三と言うとブロードウ
ェーシリーズが言われがちだけど、実はあのシリーズ以外の方がむ
しろ青木濃度は濃いんだよね。先に挙げた「追いつめられたルパン
」でも青木悠三が担当してる箇所がありますが、これまた絶品。流
麗で洒脱なタッチと独特のタイミングが凄く気持ちいい。

くま
あのタイミングは天性のものですね。すっ飛ばしたと思ったら溜め
てまた飛ばすみたいに。新ルで「なんか雰囲気が変わったなぁ」と
感じたら大体青木作画パートに突入したと言ってもよいでしょう。
ブロードウェイシリーズおよびその他の青木コンテ回は、青木氏が
ゲストキャラデザインだから注目されるんでしょうけど独創性のあ
るラインはやはり目に付きますね。

”セカンドシリーズ”イラスト
by 池本 剛
”セカンドシリーズ”イラスト by 池本 剛
池本
といった辺りで新ル中期へ移ります。まず「とっつあんの惚れた女
」と「ルパンのお料理天国」ですが…この二本と先に挙げた「モロ
ッコ」を合わせた三本が新ルにおける青木悠三ベストの回だろうと
思います。もっとも…全編の原画を担当した「モロッコ」に対して
、他の二本はBパート担当、といった違いはありますが。念のため
申し添えるなら、坂巻貞彦が担当したAパートも質が高いです。「
惚れた女」Aパートの途中で作画がヨタるのは多分…モニョモニョ
…だろうと思います。…というような判断は消去法と言うか、スタ
ッフ表を見比べての推論であって「これが坂巻貞彦の作画なり!」
といった確証無しに話してますから実際はどうなんだかちょっと不
安です。香盤表があれば話が早いんだけど。

くま
坂巻貞彦、どうなんでしょ?青木コンテの回で名前は見かけますが
。軽~い作画をするのかな。「惚れた女」Bパートは私が割と早い
段階で見分けることが出来た青木作画です。Aパートをやってる江
村豊秋も高畑回で力を発揮する人ですが、この回はそうでもないか
なぁ。

池本
あ~…ホントだ。確認してみたら高畑順三郎回によく名前がありま
すね。僕はどうもこの人が…モニョモニョ…なんじゃないかなぁと
思うんだけどね。クレジットが原画の末席あたりですよね常に。お
およその法則性としては力のある人ほど頭の方にクレジットされる
事から考えると、多分『そーゆー事』なんじゃないかなぁ、と。何
故か友永さんは末席から二番目のポジションが多いのが変則的だっ
たりするんだけど。
それとも逆なのかなぁ…坂巻貞彦がモニョモニョなのかなぁ。青木
悠三と坂巻貞彦の二人で原画を担当してる「お料理天国」が殆ど緩
いとこが無かったと思うから、というのと、「惚れた女」Aパート
と「お料理天国」Aパートの画風に似てる部分がある…というのが
そもそもの判断の根拠だったんだけど…。仔細に見ると違うのかな
ぁ。何にしろ決め手に欠けますね。「惚れた女」は青木・坂巻・江
村の三人だから、とにかく坂巻か江村のどっちかがモニョモニョの
はずなんだけどね。

くま
「お料理天国」はBパートがもう楽しくて楽しくて、すっとんきょ
うなことやってるからこの回の脚本は浦沢義雄だと勘違いする人が
いますが、本当は金子裕なんですよね。画って偉大だ~。

池本
そして「ロボットの瞳にダイヤが光る」…これも青木悠三テイスト
の作品ですが、ここはむしろ椛島義夫作画を堪能する回として推し
ておきます。「マモー編」でも作画監督でコンビを組んでいますが
、この二人はかなり相性がいい。描線で話をすると、青木の軽みに
対して椛島の重みとでも言えばいいのか…あまり上手く言えません
が…とにかくは違いがあるわけですが、メリハリの効かせ方が似た
方向なので馴染むんじゃないかと思います。だからこの回の成功の
決め手は青木コンテ・椛島原画という布陣にあって…それはつまり
二人の才人が担当したからという単純な事実と、その上で二人の作
風の相性がいいという点にあります。天才の相乗効果です。

くま
「ロボット」は原画スタッフも異色ですね。椛島作画はキャラの手
足を見れば分かるんじゃないかと推察します。描線は重いですよね
。グッと地についてるような。それでいてタイミングは青木作画と
似ている。
あと青木作画で触れとかなきゃいかんのが「ドロボウ交響曲を鳴ら
せ」ですね。まーこの回はAパートがおよそ高畑作画でいい仕事な
のですが、Bパート半分が青木作画になってます(テロップには何
故か載ってません)。原子炉に入る辺りからラストまでですが、爆
発のタイミングや虎の走り方が分かりやすい。虎をオチまで引っ張
るってのは脚本的に無理がある気がしますが(笑)

池本
「ドロボウ交響曲」は高畑順三郎のベストワークのひとつでしょう
ね。シャープな描線が雰囲気を盛り上げてて。「ドロボウ交響曲」
Bパートの青木悠三担当部分は二人でDVD見ながら割り出したりし
ましたね(笑)ラストの虎のシークエンスは多分、尺が余ったから
無理に追加したんじゃないですかね。
「ロボット」以外のブロードウェーシリーズの「君はネコぼくはカ
ツオ節」「チューインガム変装作戦」「老婆とルパンの泥棒合戦」
…あるいは、シリーズに含めるべきか微妙ですが「1999年ポップ
コーンの旅」「ポンペイの秘宝と毒蛇」などの浦沢脚本・青木コン
テによるコメディ系作品の作画の質が落ちるのは各々の原画頭が高
畑順三郎、辻初樹、窪秀巳、小林一幸、横山広美だったために『青
木悠三』が上手く活かされていないからですね。青木悠三本人が担
当した数カットは勿論別ですけども(笑)
高畑順三郎は力量のある人なんで上手くこなしてる方ではあるんだ
けど、独特のシャープさがコメディとは相性が悪い感じで、「君は
ネコ」はもうひとつ上手くいってないように思います。これは単な
る嗜好の問題かもしれませんが。

くま
うーん、「君はネコ」の高畑作画は全体的に大人しめな感がありま
すね。その他の回も青木作画以外はヘタってるので損してるよなぁ
、と思います。コメディタッチだからこそ作画に力入れなきゃイカ
ンのに。

公開日: 2004-06-22 00:00  投稿者:  カテゴリ: コラム

「二人で作画を語ろう(仮)」目次

コメントを残す


ルパン倶楽部ツイッター
当HPで掲載した情報等をツイートでお知らせしています。