第11回『風魔一族の陰謀』

作画を二人で語ろう(仮)
第11回『風魔一族の陰謀』

くま
「バビロンの黄金伝説」から2年後の「風魔一族の陰謀」。風魔は
実は結構後になって見た作品なんです。声優が全員違うというのは
余り気にならなかったですけどね。単純に友永さんのキャラデザが
苦手だったのです。なんつーか、田舎チックで貧乏臭そうな雰囲気
がどうにも当時は合わなくて。

池本
僕の場合、画風には全然引っ掛からずに、とにかく声優変更が受け
付けなかったです(苦)割に早い段階で慣れちゃいましたけど。力
量のある人達だから『馴染んでいたものと違う』という違和感さえ
乗り越えてしまえば問題は消滅するわけで。慣れてしまったら欲が
出てきて「どうせならもっと違うキャラ解釈でキャスティングすれ
ば良かったんじゃないか」とか(笑)声優刷新と言いつつも基本的
にそれまでのキャラ解釈を踏襲した上でのマイナーチェンジのよう
なもんですからね、「風魔」は。

くま
ルパンファンの悪い癖かも、声優声優と騒ぐのは。今となっては塩
沢兼人さんの五右ェ門なんか絶対聞けないのに。もっとそのキャス
ティング自体を楽しめばお得だと思うのですが。…まぁ私も幾つか
のフィルターがかかったままで、いざ作品を見てみるとその完成度
の高さに度肝を抜かれました。
冒頭のドタバタからして凄いですね。文字通りドタバタ動く。奥か
ら手前にダダダッと走るカットがまた丁寧で、流石テレコムと思わ
せるシーンです。正直、ストーリーに関しては何も面白くない(笑
)ので、テレコム主体で好き勝手に作ったというのは、作品にとっ
て相当救われてると思います。その意味では「バビロン」よりも幸
せな作品かも知れません。

池本
ストーリーに関しては特筆すべき部分てのは無いですね実際。画面
の楽しさだけでここまで充実するんだって事ですね。ただまぁこれ
だけの画面を見せられると「これで内容も充実してれば…」と思う
わけで、そうした意味では「バビロン」と同じく作家不在てのが痛
恨ですね。
演出だったかコンテマンだったかが、いい加減な仕事しかせずに遁
走してしまったらしくて、仕方ないから作画陣が仕切り直して、ど
うにか形にしたそうですけど…まぁだから『有能な』作画陣が主体
的に作品内容に踏み込めばここまで活気のある作品が出来る、とい
う好例であると同時に、『それだけでは』やはり限界がある、とい
う事の好例だろうと思いますね。

くま
結局作画に特化するというのが作品の色になってるので、折角だか
らその部分を楽しんでみるのがいいでしょうね。この「作画を語ろ
う」企画のなかではとてもやりやすい作品なのではないかと(笑)
全体的に、カットの尺が長いですかね?キャラの演技や動きを見せ
ようというのがよく伝わってきます。レイアウトもそれに準じてい
る感じで、作画ありきな画面作りに重点を置いてるのでは無いでし
ょうか。カメラワークは比較的少なく、PAN、FOLLOWのあるカッ
トでも、必ずキャラや車を動かしている。強いて言えば付けPANが
多いかも。

池本
付けPAN多いですね(笑)実際はそれほど多くはないのかも知れな
いけど印象的だから多いように感じちゃいますね。カットが長め長
めになるのは絵描きの性かも(笑)なるべくみっちり画を見せたい
という。動きの楽しさを追求してるから尚更でしょうね。

くま
「風魔」における動画というのは、スピーディなアクションには1
コマ作画で枚数を割いて、演技が求められるカットでは特に手や目
、口を使った動作が多いように感じます。現に、この作品における
次元は、よく目を見せます。
まあ…動画の重要性を理解しているスタッフなら、動きに拘るのは
当たり前なんでしょうけど。さらに特徴としては、動作の肝になる
部分や、カットの尻で枚数を使っているところでしょうか。具体的
には車がジャンプするところとか、回り込みの途中とか。逆に、誇
張のある中割や、極端に作画を崩したり伸ばしたりするのはあまり
見られません。ん…そう言えばオーバーラップが少ない気がするな
あ。エフェクトにはあまり頼っていないっぽいです。

池本
堅実な手描きの良さにこだわってるんでしょうね。あまり機械とか
技術とかハッタリを信用していないと言うか。勿論そうしたものの
裏打ちもありますけど、それに頼ってはいない。オーソドックスな
ものをきっちり作るという事を念入りにやってますね。ハッタリっ
てのは実は簡単な事で、「風魔」のように『きちんとやる』という
のは本当に大変な作業なんであって。この辺の思想と言うか姿勢み
たいなものってのはテレコムの、あるいは大塚康生の基本姿勢なん
でしょう。

くま
「風魔」では大塚康生は監修として参加してますね。

池本
テレコムの基本路線を確立したのは大塚康生だった…てのもある
しね。古き佳き東映動画の流れに括れるわけで。
一時停止なりコマ送りなりで見るとよく判るんですが一枚絵として
のグレードは大して高くないんですね。むしろ緩いくらい。それが
動いたときに全く気にならない…と言うか気がつかないのは、動き
の面白さに比重がかかっていて尚且つ動きの面白さが一級品である
事、それと、くまさんが指摘したように肝となる部分の画を丁寧に
描いているから、なんですね。この辺の図式は「カリ城」にも言え
るわけで、『画面の充実とは何か』を考える際の好材料ですね。

くま
この作品から、大塚康生のアニメーションへの姿勢が伝わってくる
感じがします。多少一枚絵としての完成度が低くても、動き的に面
白く画面を表現出来ていればオッケーという雰囲気に思えます。ア
ニメーション自体が物語を作れているというのは素敵な事ですね。
「風魔」では動きで「ルパン」っちゅうのはこういう作品なんだ!
というのが語れてるんじゃないかと。
作中で特に好きなシーンを挙げると…ルパンがワルサーを撃つカッ
ト。一瞬だけど無茶苦茶カッコイイ。続いて五右ェ門が森でルパン
と次元に襲いかかる場面。とても丁寧な1コマ作画がツボです。こ
の作品の肝である2回のカーチェイス…とりわけ温泉街のカーチェ
イスはホントに贅沢な作りになってますね。車というアイテムで、
これほどの種類の動きを見られるのは、恐らく「ルパン」だけでし
ょう。
あと、崩落シーンもテンポの良い運びですね。崩れる岩や城壁と、
その中でちょこまか動くキャラのバランスがとても面白いです。

池本
アクションシーンはどれも見せ場ですね。温泉街のカーチェイスは
日常が一挙に非日常へと雪崩れ込む図式が面白いですね。そこから
続く不二子のバイクアクションも小気味良くて。
物語序盤のカーチェイスも、冒頭の風魔一族襲撃の乱闘シーンも実
に動きまくってて気持ちいい。その上で、もうひとつ指摘すべきな
のは仕掛けが楽しいって事ですね。舞台を存分に活用してる点が実
に偉い。日常的な場所を舞台に、そこから湧いたアイデアを次々に
展開させてるのが凄い。
後まぁ…いつでもどこでも常にアクションシーンに関しての言及が
当然多いわけだけど、念を押しておかないといけないのは…何気な
い描写、日常芝居・仕種も実によく作り込まれている点ですね。

”風魔一族の陰謀”イラスト
by 池本 剛

”風魔一族の陰謀”イラスト by 池本 剛

くま
あと、五右ェ門が幻覚ガスでルパン達に襲いかかるシーン(この作
品の五右ェ門、よくルパンを襲うなあ^^;)、この辺りのパート
を湯浅政明さんがやったら、さぞかし楽しい事になっていたでしょ
う。

池本
ああ(笑)「湯浅政明担当だったら」ってのは面白いですね。

くま
そして後半のチャンバラアクション、素晴らしいです。非常に素早
い殺陣。キャラによって動きに特徴があるのも面白いですね。五右
ェ門がダッシュで斬り込んでくるシーンはとても軽快で好きです。

池本
長い「ルパン」の歴史の中でもこれだけみっちりと殺陣を魅せたの
は後にも先にも「風魔」だけでしょうね。五右ェ門がスーパーウル
トラ剣士でなくて野武士っぽいと言うか剣客っぽいキャラ解釈でや
ってるってのが効いてますね。

くま
あと…気になると言えば、ルパンの顔が幻覚ガスでころころ変わる
カットかな。順番的には、新ル(友永作画回?)→PARTIII初期(全
然似てないけど)→新ル(だとしたら全然似てない^^;)→マモ
ー編→PARTIII中期でしょうか?

池本
新ル(テレコム回)→ルパン8世→新ル後期→マモー編→PARTIII中
期じゃないかなぁ…?ちょっと断定は出来ないけど。
この手の遊びの発案は大塚康生じゃないかって気がしますね(笑)

くま
ルパン作品に置いて番外編的な位置づけの「風魔」ですが…とんで
もない話で。非常に贅沢な作品だと思います。作画が作り出す面白
さというものを堪能するには十分でしょう。
私的に、アニメというのは線を描き込んで綺麗に描くのが全てでは
なくて、むしろ「風魔」のように、ある程度線を少なくして動きを
大事にしてる作品の方が好きでして。アニメーションの楽しさを追
求したアニメというものをもっと見たいです。そういう楽しさをア
ニメに求めている人なら、きっと「風魔」に魅了されるんじゃない
かな~と思います。

公開日: 2005-04-13 00:00  投稿者:  カテゴリ: コラム

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