作画を二人で語ろう(仮)
第9回『カリオストロの城』

くま
それでは「カリオストロの城」に行ってみましょう。
アニメーションの歴史に残る超傑作映画「ルパン三世(「マモー編
」のこと。副題無し)」の翌年、宮崎・大塚の最強タッグとテレコ
ム・アニメーションフィルムがメインで制作した「ルパン」劇場作
品第二作目作品の「カリオストロの城」です。釘を刺しておきます
が間違ってもスタジオジブリの作品ではないので…(笑)

池本
ジブリ作品てのは「ラピュタ」以降だもんね。

くま
お話だけを見ると「ラピュタ」と同じく何の事はない…ルパンがク
ラリスを助け出すだけ。問題はその描き方の緻密さであって、そこ
が宮崎駿の凄いところ。一言で言ってしまうと『無駄が無い』んで
すよ。その場その場の画面説明ではなく、後々に絡んでくる要素を
頻繁に盛り込んでいると同時にそれを時にはさりげなく、時には興
味深く描くみたいに。これじゃあ何の事やらさっぱり分かりません
ね(汗)。まー言ってみればイベント発生のための『フラグ』の立
て方が巧みなんです。例えば「何で都合良く落とし穴に嵌まったか
」というと助かる算段を既にしていたわけで(この場合、クラリス
に偽物の指輪を嵌めるというのがフラグですね。)これを辿ってい
くと、ルパンが撃たれるまではほぼ完璧にルパンの思惑通りに事が
運ぶんです。このストーリー展開の巧みさには舌を巻く他はありま
せん。

池本
しかもその偽の指輪を、カゲ襲撃の時点で既に用意していたという
周到さね。緻密で且つ説得力があるもんね。およそ隙が無い。

くま
このようなストーリーを画面、作画、美術、音楽を総動員して演出
しています。まずは画面ですが…「マモー編」ではふんだんPANに
伴う密着マルチを使い、とてもアクティブな映像を作り出している
ことは既に言いました。それに比べてこの「カリ城」はカメラ固定
(FIX)のカットがとても多いのです!恐らく7割~8割は固定で
はないでしょうか。アクションシーンでさえ結構動いているように
見えるのに止めが多いです。固定のままという事はそれだけの空間
で全ての説明が要る、或いはわざと説明しないなどの思惑があるわ
けですが、いずれにせよとても落ち着きのある映像に見えます。お
かげで100分もある大作をじっくりと鑑賞することが出来るのです
ね。まぁ止めが多いのは制作費の節約の意味もあるのでしょうけど
ね。

池本
宮崎駿はストイックな作家ですね。オーソドックスな事をきっちり
やって魅せるタイプ。宮崎駿ならではの飛躍はふんだんに使ってる
けど『ハッタリ』とかその手の方法論からは遠くて。
節約は…制作費云々と言うよりはむしろ力の抜き差しの問題なんだ
ろうと思います。力入れるべき箇所はギュンギュンに手をかけて、
必要無い箇所は止めたりバンクを使ったり。

くま
ああ確かに、緩急の付け方が今も昔も上手いです。
カメラがずっと固定だったら、流石に飽きるだろうと思えばそうで
はなくて、そこで作画が登場します。先に述べましたが作画スタッ
フは旧ルパンを手がけた大塚康生を筆頭に、新ルパン後半を支えた
テレコム・アニメーションフィルムです。この「カリ城」は若干デ
フォルメに癖があり…俗にいう宮崎キャラですね。私はいつも大塚
ルパンだ!と主張しています。

池本
「カリ城」のルパンは宮崎ルパンと大塚ルパンのハーフでしょうね
。大塚康生が宮崎駿の画風に近寄って行ってるわけで。

くま
キャラ崩れが目立ちますが、その代わりに動く動く!走って泳いで
落ちて食べて殴って寝る。人間の挙動の殆どを見ることが出来るの
ではないでしょうか。カメラはあくまで被写体を映した目の役割、
その目に映ったキャラは芝居をする。その芝居を作るのは声優であ
り、同時に作画スタッフでもあるのです。この作品内でのルパン達
は最高レベルの芝居が出来ていると言っていいでしょう。実際、作
中でルパンは最初に北の塔に乗り込んだとき『芝居』をしています
が、クラリスの部屋に降りてくるカットから地獄へ通ずる穴にルパ
ンが落ちるまでの約60カット(バンクがあるので、もうちょいある
かも)すべてFIXのカットです!にもかかわらずこれほどのシーン
が出来てしまうのは作画とコンテによる功績が大きいものと思われ
ます。「カリ城」における作画は、演技者の一部をも担っているの
です。これは高く評価すべきでしょう。
アクションシーンも見応えがあります。冒頭のカーチェイスは友永
和秀ですが、テンポの良さ、アクション性の高さ、掴みとしては申
し分ない完成度です。

”カリオストロの城”イラスト
by 池本 剛
”カリオストロの城”イラスト by 池本 剛
池本
『芝居』はとにかく素晴らしいの一言ですね。宮崎駿の観察眼には
もう敬服するしか無い。現実を如何に切り取って如何に描くか。き
っちり構築した物の上に鮮やかな飛躍を盛るという図式は「マモー
編」とダブりますが、両者のテイストはかなり違いますね。作家が
違うんだから当たり前ですけども。スタイリッシュな「マモー編」
と冒険活劇の「カリ城」…どちらも登場人物と作品世界が生き生き
と魅力的に描かれているわけで…だからこそ面白い。

くま
どちらもアニメとして何を一番魅せたいかで作風が変わっている感
じですね。「マモー編」「カリ城」どちらも凄いけど、「カリ城」
の描写の細かさには敬服です。アニメをあまり見ない人でも入れる
のは「カリ城」かな。あと、画面を彩るものとして『背景』につい
て触れておきたいです。この作品の美術監督は小林七郎。画面構成
に不可欠な美術設定が、これほどまで緻密な作品はそうは無いでし
ょう。カット数が多いためその分、背景の数も増えるわけですが、
一つ一つが丁寧であり、画面の一部を担っています。大公の館や、
カリオストロ城などはそれだけで画面になってしまいます。中世ヨ
ーロッパの趣を知らない私でさえ擬似的に雰囲気を感じることが出
来るというのは凄い事だと思います。

池本
小林七郎の美術は何がいいと言って、空気感があるのが偉いんです
よ。画面に空気が描かれている。小林七郎に限りませんが、優れた
美術とは全てそうしたもんだろうと思います。

くま
また、『背景』にリンクするものに『色』があります。全体的に「
カリ城」における色は、『背景』の殆どが中間色で若干青とか緑寄
り。これは自然が多い事やルパンのジャケットが緑である事が関係
してそうですね。キャラは若干原色っぽいかな。あと「カリ城」は
時間軸が結構肝になっていたりするのですが、時間(この場合時刻
を指す)によって空の色が異なるというのは、地味に凄い事ではな
いかと。空が変わるという事は、自ずと周りの風景もその様相が変
わります。「カリ城」の世界では自然が一杯なので、なおさら『色
』には目を見張らなければならないでしょう。私が好きなシーンは
「大公の館からローマ水道まで歩くルパン、そして時計台の音とと
もに映し出されるカリオストロ公国の風景」の件りです。この件り
は時間(こっちは何百年単位の時間)というものを描き出している
ように見えますが、この背景と色だからこそそれが出来るのではな
いかと考えています。そうそう、キャラによってはそのカット用の
色遣いがありますよね。先に述べた北の塔の件や、城の地下のルパ
ンと銭形みたいに。これほどの塗り分けを当時からやっていたとい
うのは凄まじいですね。何故そこまでやるのかと言うなら、背景と
色は切っても切れない関係であり、色は画面を作るために欠かせな
い要素であるからです。

池本
時間を表わすための美術の色彩設計だとか、場面によるキャラクタ
ーの色指定云々だとか…この辺の事って別に『「カリ城」が到達し
た』とかいった事でなくて、もっと古くから良質な作品では当たり
前に行なわれていた事で。だから「カリ城」の何が偉いと言って、
特に何か目新しい事をしました、と言うんでは無しに、『オーソド
ックスに』『キチンと』『やるべき事をやってる』というのが凄い
、だから偉い、となるんです。これはまぁ翻って言えば、他の凡百
の作品群が如何に杜撰な代物であるかという事なんですけども。

くま
ですね、本来なら私の言っていることも「今更そんな当たり前のこ
とを言うな!」って突っ込まれて然るべきなんでしょう(笑)
その当たり前であるはずの事が出来ていない作品がどれほど多いこ
とか!基本に忠実でなければ奇をてらうことなど出来もしないので
す。…あと、「カリ城」でオーソドックスなものといえば『自然』
の描写があると思います。「カリ城」で目に留まる自然は水、風、
火、あたり。その中で『風』というものが作中頻繁に出てきます。
高いところが舞台の時が多いからでしょうか。たとえばルパンがロ
ケットを使って北の塔に飛ぼうとする件り、この辺りの高さの表現
は素晴らしいものがあります。美術的には、傾斜の急な屋根、眼下
に広がるカリオストロ城、遠くに僅かに見える山並みなどを映し出
しています。そして空の雲を引っ張ることによって風を表現し高さ
を主張しています。なるほどロケットは風に思いっきり左右される
のでしょう、ここで風の表現を出すことは至極理にかなっています
。そのシーンの直後、先に述べた北の塔の件りで、締め切った部屋
に入ってくるはずのない『風』を使う事でルパンが入ってきた事を
示すと同時に、閉鎖的な空間『だった』事をも語っています。自然
の力は偉大です…。

池本
そういった目に見えない物を描くときに、安易に漫画記号を使って
いない点は注意すべき点です。今日日の糞アニメは漫画記号の羅列
を「これぞ今風の表現でござい」とジャカスカやってますが、あん
なもんは思考停止にしか見えないですね。

くま
記号羅列をジャカスカやってるか、徹底してリアルか。どっちを見
ててもいずれ飽きてしまいます。
映像やら作画やらをぐだぐだ語ってしまいましたが(汗)これ全て
エンターテインメントの為では無かろうかと。やっぱ作品ってもの
は何かしら楽しみたいですからね。そのためなら作り手側は、工夫
もするだろうし拘るだろうし遊び心もふんだんに添える。そういう
意味では「カリ城」はもっとも楽しめるアニメ映画なのではないか
と思います。これほどの作品が4ヶ月で完成したというのも驚きな
わけですが。

池本
「カリ城」もやっぱり「マモー編」と同じで、弩傑作とは言いなが
ら手放しに誉める事も出来なくて。一番引っ掛かるのは素材感です
ね。金属を描いてる部分がペラい感じがするのがその筆頭で。勿論
上手く描写されてる箇所もありますけど、全体にはちょっと弱い。

くま
何となく分かります。ちゃっちいんですね。

池本
東映の漫画映画とかAプロ作品なんかだと素材感の描写が上手く行
ってたりもしてるから、これは技術がまだ未熟だった、という訳じ
ゃあないんですね。宮崎駿という作家が漫画映画的な世界から、「
ラピュタ」辺りで完成を見せる宮崎アニメの世界へと至るまでの丁
度過渡期が「カリ城」辺りなわけで。素材感という面から行くと「
コナン」とかも弱いですしね。

くま
宮崎駿は「コナン」→「カリ城」→「ラピュタ」と見ていくと変遷
がよく分かりますね。

池本
そういった宮崎駿の不安定さと、まだ若かったテレコムというスタ
ジオと、厳しいスケジュールと、そういった諸々の要素が「カリ城
」の弱い部分の原因となってる。…ってそれはまぁ「マモー編」も
「バビロン」も「風魔」も抱えてる問題ではあって、万全の態勢で
作られたルパン長編・中編ってのは皆無なんだけども(苦)

くま
ルパン作品永遠の課題の一つは製作期間の確保(笑)
残念ながら、次の作品もその課題は達成できなかった訳ですが…。

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