作画を二人で語ろう(仮)
第8回『マモー』

くま
ついにやってきました。「ルパン」劇場作品第一作目です。新ルパ
ンが始まった当初から製作が開始されて、クオリティ的にも大変な
作品になりましたね。最近は「カリオストロの城」だけではなく、
「マモー編」もしっかり評価する人が増えてきました。いい傾向で
す(笑)
監督・脚本・絵コンテは旧ルパンに関わった吉川惣司。キャラデザ
インは椛島義夫、主にメカデザインが青木悠三、レイアウトに芝山
努という最強の布陣になるわけですが。

池本
え??「マモー編」て新ルがスタートした時期から製作開始してた
の!?それは知らなかった…。いやしかしそんなに長く準備するか
なぁ…??

くま
製作期間が1年だそうです。

池本
あーーなるほど。でも実働期間はグンと少ないでしょうね。

くま
1978年の第一作目にして、最高水準の「ルパン」が出てしまいま
したね。「ルパン」は様々な長編がありますが、この「マモー編」
と「カリオストロの城」があまりにもずば抜けているため少なくと
もこの2作は、「ルパン」を知る上では避けて通れないでしょう。

池本
確かに。この2本はアニメルパンが到達し得た最高傑作の2本だと
言えるでしょうね。

くま
まず単純な『画面』についてですが、劇場作品って画面が横に長い
ですよね。そういうのもあってか、この作品、非常にPANが多いん
ですよ。しかもただ横に振るだけではなく、頻繁に密着マルチを取
り入れたり、固定→PAN、PAN→固定といった、視聴者の飽きがこ
ないように工夫が施されているのです。固定カットだと思ったら横
に振るから「えっ、こっちに行くの?」みたいなものが結構ありま
す。固定のままでもスライドがあったりして、だから凄い刺激にな
るんですよ。また、キャラや物体の周りに、『何も存在しない空間
』がかなり重視されているのも気になりました。ルパン達の左がす
かすかだなあと思ったら車がカットインしたりするといった感じ。
いずれも新しい手法ではなく、今のアニメでは当たり前のように使
われていますが、「マモー編」においては、空間の使い方がべらぼ
うに巧い!その画面が視聴者に対して何を見せたいのかを作画、撮
影、美術、音楽などのいずれか(もしくは全て)を使って表現して
いるのです。とにかく映像を撮るという事の基本に沿った上で、ス
タッフの物凄い工夫が見え隠れします。

池本
何せアニメビジョンですからね(笑)この頃のこの手の煽り文句な
んて話半分に聞いとくべきもんだってのがパターンだから、てっき
り『アニメビジョン』なる単語も実体の無い空疎な言葉だろうと思
ってたらこれ実際に大判のセルを使ってたそうで。
まぁそういった特性を充分に活かし切れたのは芝山努の功績ですね
。レイアウトが馬鹿みたいにカッコイイ。吉川惣司のコンテの段階
でもう充分外連味たっぷりでゾクゾクするんだけど、それを更に芝
山努がブラッシュアップしてて。芝山努ってホントにこーゆーハッ
タリの効いた画面作らせると無闇に凄いですね。

くま
ただでさえ足の長いキャラがいっぱい出てくるのに、そのキャラの
全身像を見せるカットが無茶苦茶多いんですよ。そして全身で『演
技』をさせる。バストアップは少なめですが、たまに弩アップがき
たと思ったら無っ茶印象に残るカットだったり…使い方が抜群に巧
い。この辺りは旧ルパンにも通ずるところがありますね。

池本
印象的な絵作りが本当に巧みですよね。この辺はもう吉川惣司の独
壇場な気がします。とにかくもう無闇にキャッチーな画面で度胆抜
いてしまえという。

くま
印象的といえばマモーの名を口にする不二子のカットはやたら尺が
長いですよね。キャラが初登場する時って大体アップから始まって
るよなぁ…あのフリンチでさえそうだし(笑)。でも基本は全身。
全身が映るという事は自ずとカメラは距離のあるところに置かれる
ことになります。となるとキャラ以外で別に映らなくてもいいとこ
ろが映るわけで…。だからこそ画面の構成に拘るんですよね。この
辺りの発想が実写的で、物凄く画面の密度が高くなってる。私が初
めて「マモー編」を見たとき、びっくりしたのはピラミッドから綱
の上を伝って脱出するルパン達をつけるカット。やってる事はとて
もマンガチックだしルパンチックなのに、下で銭形警部が走って追
っかけてるアクションが映っていることで、むっちゃ説得力が増す
のね。上は人外なアクション。下は文字通り地に付いたアクション
をやっとるわけです。「マモー編」は全般にわたって嘘ついてるけ
ど(笑)画面がそれを見事にまとめてる感じです。

池本
リアリティってのはこーゆー事を言うんだろうと思うね。説得力の
ある描写を重ねた上でズバーンと飛躍しちゃう。だから面白い。基
礎がグズグズな上にいくら飛躍を盛ったところで、それは単に『出
来てない』だけで白けるし、逆にガチガチの糞リアリズムだと何が
面白いんだか判らないんだよね。アニメの肝は現実感を生む描写を
積み重ねた上での飛躍、だろうと。

くま
光、影についても言及しておかねばならないでしょう。「マモー編
」においては、光と影はいたる所に出てきます。火に照らされる影
、雷で一瞬出来る影、サーチライトに照らされる影。影を黒で、光
を白で表現というのが私にとってはツボなわけですが、やっぱり分
かりやすいでしょ。メリハリを出すと言う意味では。冒頭の銭形警
部とかいい感じですね。階段を下りるカットでも影が効果的。当時
はデジタルではなかったので、ある程度色に関しては制限されたの
だと思います。だからこそそれを逆手にとって、「このカットの半
分は白で」とか「このカットでは存在しない色を決める」みたいな
ことをして映像を作っていたのではないかと。究極的には白黒の画
面すらありますよね、冒頭とかピラミッド内とか。先に出てきまし
たが椛島作画の「ロボットの瞳にダイヤが光る」でも、白黒な処理
がなされたカットがありましたね。

池本
「マモー編」で繰り返されたモチーフと言えば『十字架』もありま
すね。至るところに十字架のイメージがちりばめてある。

くま
そうですね、十字架というのは取り分け印象的な感じです。
あと、作画に関しても椛島デザインはとってもシンプルであり、し
なやか。表情も細やかです。さっきも言ったけど、アップの時なん
かは半端じゃないカッコよさです。あと忘れちゃいけないのが青木
悠三作画です。ベンツ、クーパーによるカーアクションは圧巻です
ね。映像的にもタイミング的にも『神』作画と言っていいでしょう
。「マモー編」はストーリーがいいのでそちらに目が行ってしまい
ますが、それを支えるのがやはり画面なのではないかと。そして「
マモー編」における画面というのは作品を魅せる為の、アニメ作品
における最高レベルの映像なのではないかと私は主張します。

”マモー”イラスト
by 池本 剛

”マモー編”イラスト by 池本 剛

池本
椛島義夫と青木悠三はホントに相性がいいですね。この二人のハッ
タリの効いた画風が、芝山努のハッタリの効いたレイアウトで、吉
川惣司のハッタリの効いた世界を描いたんだから…これはもう美し
い化学反応の連鎖なわけで。弩傑作なのは当たり前の成り行きです
ね。ただまぁ…全面的に完成度高いです!!とは言い切れなくて。
ところどころ作画がヘタったり、単純だけど致命的なミスがあった
りと、あちこち穴はあるわけで。実は結構ガタガタだなぁとも思い
ます。

くま
椛島修正が低いところは割とヘタってますね。あと、色塗りミスと
かも見受けられます(バイクのタイヤが切られたカットのルパン等
)。「マモー編」もやっぱり時間が無かったのかなぁ。

池本
それもこれも『いい箇所は壮絶にいい』という事と、作品の闇雲な
パワーとで、殆ど気にはならない訳ですけども。それでもまぁ…も
う少し粘る余裕がもし仮にあったなら更に高みに行けたのになぁ…
とは思いますね。

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